愛知県一宮市を拠点に、芸術文化振興事業や親子サポート、国際交流事業を行うNPO法人ToriCote(=以下:ToriCote)。
その代表理事を務めるのが、サクソフォン奏者の袴田美帆です。
袴田はフランス・パリで約8年間音楽を学び、サクソフォン奏者として国際的に演奏活動を行ってきました。
2023年に日本へ帰国してからはふるさと一宮を拠点に、芸術を通して地域と世界をつなぐさまざまなプロジェクトを展開しています。
音楽家としての活動を続ける中で、彼女はなぜNPO法人を立ち上げることになったのでしょうか。
フランスでの経験や、帰国後に見えた地方ならではの可能性、そしてToriCoteの活動への想いと、袴田が描くこれからのビジョンを伺いました。

袴田 美帆 Miho Hakamada
サクソフォン奏者/アートマネージャー/NPO法人ToriCote代表理事
神戸大学国際文化学部でアートマネジメントを学んだのちフランスへ渡り、パリ国立高等音楽院サクソフォン科、室内楽科、即興学科を修了。第7回アドルフ・サックス国際コンクール・ファイナリスト。文化庁新進芸術家海外研修員として研鑽を積み、新日本フィルハーモニーと共演するなど、国内外で演奏活動を行う。2023年、約8年間のフランス生活を経て帰国。2024年よりリサイタルシリーズ「サクソフォンで織りなす、パリと一宮」を開催。また、海外アーティストの招聘や地域イベントの企画などを通して、ふるさとと世界をつなぐ活動を展開。現在は演奏・指導活動のほか、NPO法人ToriCoteの代表理事として、一宮を拠点に活動の幅を広げている。
現在の活動について

まず、袴田さんの現在の活動について教えてください。
袴田:私は現在、フリーのサクソフォン奏者として演奏活動や学校や企業での講演、レッスンなどをしています。
また、2025年10月にNPO法人ToriCoteを設立し、代表理事として芸術文化振興や国際交流事業の企画や運営を行っています。

そのほかにも、フランス音楽留学のサポートや通訳、音楽イベントの企画・制作なども行っているので、活動内容はとても幅広いです。
大学時代はアートマネジメントを専攻し、その後フランス・パリに留学して、約8年間音楽を学んで演奏活動を続けてきました。
2023年に日本へ完全帰国してからは、フランスでの経験を活かして、自分で演奏会の企画を行ったり、学校での講演や地域の文化イベントにも積極的に関わっています。
一方で、フランスでの活動もできるだけ続けていきたいと思っているので、現在も半年に一度ほどフランスに滞在し、演奏活動を行ったり、現地の子どもたちに音楽を教えたり、日本から留学する学生のサポートなどもしています。
パリでの経験から生まれた、文化をつなぐ活動

フランスでの留学経験は、現在の活動にどのようにつながっているのでしょうか?
袴田:フランスでは、コンサートホールだけでなく、美術館や小さなサロン、学校、地域のお祭りなど、さまざまな場所で音楽を聴くことができます。
赤ちゃんからお年寄りまで、さまざまな世代の人たちが一緒に音楽を楽しんでいる様子を見て、音楽や芸術が身近にあるというのは、こういうことなんだなと感じていました。
また、フランスの地方都市に演奏に行く機会が何度かあったのですが、そのたびに、地域の人たちの温かさや地域の文化を大切にしている姿を目にしてきました。
そこで特に印象に残っているのが、みんな自分たちの街の文化を誇りに思っていたことです。
街の歴史や文化を嬉しそうに紹介してくれたり、その土地ならではの話を聞かせてくれたりと、そこでのコミュニケーションは、今でも心に残っています。
そんな楽しそうな光景を目の当たりにする中で、地方だからこそできる文化活動の可能性を探していきたいと思うようになり、それが現在の活動につながっています。
日本への帰国を決めた理由

素敵ですね!その経験が、日本への帰国を考えるきっかけにもなったのでしょうか?
袴田:そうですね。留学生活も長くなり、20代後半に差し掛かった頃、少しずつ「自分はこの先、どこで、どんな活動をしていきたいんだろう」と考えるようになりました。
そのときに思い浮かんだのが、自分のふるさとです。
個人主義のフランスで生活していると、「自分の個性を大切にしなさい」と言われることが多く、日本人としての自分のルーツを強く意識する瞬間が何度もありました。
でもその一方で、自分は日本人なのに、まだ日本で働いたことがない。日本の文化をフランスの人たちに自分の言葉で堂々と伝えられていない、というもどかしさも感じていました。
フランスの人たちが自分たちの文化を誇りに思う姿を見ているうちに、私も自分のふるさとの文化をもっと深く知り、それをいろんな国の人たちと共有できるようになりたいと思うようになったんです。
そして同時に、フランスで見てきたように、文化が人と人をつなぎ、地域の中でその文化が発展するような場所を、自分の街でもつくりたいと思うようになりました。
そう思うようになったことが、日本への帰国を考える大きなきっかけですね。
一宮市の文化と音楽の可能性

パリでの生活を経て、ふるさと一宮の文化や魅力をどのように感じるようになりましたか?
袴田:一宮には、知れば知るほど世界に誇れる文化や人がたくさんいると感じています。
世界に誇れる織物文化があることはもちろん、さまざまな人が喫茶店に集まるモーニング文化や、商店街や空き店舗を活用した新しいお店など、一宮ならではの魅力がたくさんあります。
実は、私の祖父母が機織り業を営んでいたこともあって、機織り文化は子どもの頃からとても身近な存在でした。
モーニング文化も同じで、当たり前のように日常にあり、喫茶店での出会いがきっかけで自分の活動が広がったこともあります。
昔はそれが特別なことだとはあまり意識していなかったのですが、フランスで生活するようになってからこの文化の価値を改めて感じるようになりました。
フランスでは、人々が自分たちの街の文化や歴史をとても誇りに思っているとお話ししましたが、それを作品と表現するアーティストたちも多いんです。
だから、私も自分のルーツを作品で表現したいと思うようになり、フランスの音楽院の卒業試験では、作曲家の方とコラボレーションし、機織り機の音と機織り唄という民謡を音楽の素材として取り入れた作品を演奏しました。

機織り機が動くリズムや、民謡を歌った私の声を音源の中に取り入れたのですが、先生方やお客さまがとても興味を持ってくださりました。公演の後は、みんなが一宮の名前を口にしてくれて、すごく嬉しかったのも覚えています。
その作品は、2024年に一宮で開催した帰国リサイタルでも演奏しました。そのときにお客さまのアンケートで「もっと一宮に誇りを持っていいんだ、と思いました」というお声をいただいて、地域の文化と芸術を掛け合わせることの可能性を強く感じました。
一宮には、まだまだ世界に誇れる文化や魅力がたくさんあると思っています。これからも、その面白さや可能性を、他の分野の人たちと協力しながら新しい形で発信していきたいと思っています。
サクソフォン奏者がNPO法人を設立した理由

サクソフォン奏者の袴田さんが、ToriCoteを立ち上げたきっかけを教えてください。
袴田:もともとは、フランス留学中に出会った音楽家の仲間たちと、「日本とフランスを音楽でつなぐ活動がしたい」という想いから始まりました。
音楽活動を続ける中で、地域でイベントを企画したり、親子向けのコンサートを開催したりする機会も少しずつ増えていったのですが、任意団体での自主企画はどうしても単発で終わってしまうことが多かったんです。
せっかく強い想いを持って活動していても、継続できる仕組みがなければその活動を広げていくことは難しい。そんな課題を次第に感じるようになりました。
また、2024年の年末には、現在ToriCoteの理事でもある川野利花子さん、石垣千賀子さんと一緒に、国際親子サポートを行う一宮の市民活動団体「Cocoro Family」を立ち上げ、同じく任意団体として活動を始めていました。
そうした中で、助成金や補助金の申請、行政との連携、今後の活動の広がりを考えたときに、法人としてでなければアプローチできない場面が多くあることも実感しました。
さらに、もともとの音楽家メンバーの中には、親子向けの活動を積極的に行っている人も多く、それぞれの活動を掛け合わせたら、もっと可能性が広がるかもしれないと感じたんです。
そんな想いがメンバー内でも一致し、NPO法人という形でToriCoteを設立することになりました。
ただ、いざ動き始めてみると想像以上に手続きが複雑で、実際に設立するまでにはかなり時間がかかりました…
でも、その時間があったからこそ、私たちが本当に大切にしたい活動の軸を見つめ直し、今のToriCoteのかたちにたどり着けたと思っています!
NPO法人ToriCote|3つの活動の軸

ToriCoteでは、どのような活動を行っているのですか?
袴田:ToriCoteには大きく分けて3つの軸があります。
①芸術文化振興
②親子サポート
③国際交流
ToriCoteの特徴は、芸術文化振興・親子サポート・国際交流が掛け合わさる形で自主事業を行っているところです。
例えば、これまで北欧、台湾、アメリカ、フランスなど、私が留学中に出会ったアーティストを中心に一宮に招き、コンサートやイベントを開催してきました。
その際は、単に公演を行うだけではなく、地域のお祭りに参加してもらったり、子ども向け公演を実施したり、学生たちと交流する機会を設けたりと、地域の人たちが主体的に関われる機会づくりを大切にしています。
また、親子サポートや国際交流の分野では、「グローバル」や「多文化共生」をテーマに、行政や企業、地域団体などさまざまな立場の方々と連携しながら活動を進めているところです。
こうした取り組みを通して、人と人が新しくつながる機会を増やし、地域に根づきながら世界とも繋がる文化交流を地域の中で育てていきたいと考えています。
ToriCote(トリコテ)という名前の由来

ToriCote(トリコテ)という名前の由来は何ですか?
袴田:まずひとつは、フランス語の 「Tricoter(トリコテ)=編む 」という言葉です。
ふるさと一宮は、世界的にも知られる繊維産業 「尾州(Bishu)」 の街です。人と人がつながり、地域と世界、そしてさまざまな文化が糸のようにつながりながら広がっていく活動にしたい、という思いが込められています。
そこに、日本語の 「虜(トリコ)」 という言葉をかけてみました。
新しいものに出会ったときに感じる感動や、「心から楽しい!」と思える体験を地域の中に広げていきたい。
そして、いつの間にか多くの人が私たちの活動の虜になってくれるような、そんな場所をつくりたいというメンバーみんなの想いがあります。
さらに、名前の響きには 「鳥(Tori)」 のイメージも重ねています。
地域に寄り添いながら、鳥のように世界に羽ばたいていける存在でありたいという願いを込めました。
人、文化、地域、そして世界が編むように交差しながら、新しいつながりが生まれていく。
ToriCoteという名前には、そんな活動のビジョンが込められています。
NPO法人ToriCoteで実現したいこと

今後、ToriCoteで実現していきたいことは何ですか?
袴田:地域で世界と楽しくつながれるイベントを増やしていくことです。
子どもたちの視野が広がったり、大人の方にも新しい発見をしてもらえるようなコンテンツを継続してつくっていきたいと思っています。
私自身、フランスでさまざまな国の人たちと出会い、文化や価値観の違いに触れてきましたが、実際にその違いを体験してみなければ、自分の価値観や視野がここまで広がることはなかったと思います。
だからこそ、まずは自分たちのふるさとでこれまでにさせてもらった経験をたくさん還元していきたいです。

ToriCoteでは、メンバーそれぞれが得意とする芸術、保育、外国語、美容やウェルネスなどを掛け合わせながら、さまざまな企画を行っています。
海外のアーティストと地域の人たちが出会ったり、中学生ボランティアがイベントに関わってくれたり、親子で一緒に世界の文化を体験したり。
そうした交流の中で、新しいつながりが生まれていく瞬間をたくさん見てきました。

地域に根ざしながら、世界から人が集まり、文化が出会い、また新しい文化が生まれる。そして、その文化がまた世界へと広がっていく。
そんな循環をつくっていけるよう、ToriCote活動を続けていきたいです。
読んでいる方へのメッセージ

最後に、読んでいる方へのメッセージをお願いします!
袴田:ここまで読んでくださりありがとうございます。
ToriCoteは、地域の人たちが気軽に集まり、文化や人とのつながりを楽しめる場所にしていきたいと思っています。
ToriCoteの活動を通して、地域の中で新しい出会いが生まれたり、世界につながるきっかけが生まれたりする。
そんな場所をこれからも少しずつ広げていきたいと思っています。
そして、音楽や文化を通して、多くの人がその魅力の「トリコ」になってくれたら嬉しいです。
ぜひ、ToriCoteのイベントにも気軽に遊びに来ていただけたらと思います。

